ないてん井戸端会議14
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ないてん第131話
こうぞ観察日記。
というわけで、無事に楮の実つきました。
つきましては、こうぞ観察日記ダイジェストをお届けいたします。
2019.7.2
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ないてん第132話
きょどる。
本日とある日とある時間・・。
ワタクシちょっとしたあるモノを渡しに、作業場で選別中のイチゴさんのもとへ参った時のことです。
そーっと。
そーっと。
抜き足差し足忍び足でワタクシはイチゴさんに近づきます。
と、いうのも、イチゴさんのお仕事は選別。
つまり、和紙の中にあるごみやほこりを取り除いたり、また、ご注文いただいた分の枚数を数えて商品として梱包したりするので、ワタクシが行っていきなり声をかけて、もし、その時枚数の数え中だった場合、数え間違えを起こさせてしまっては非常にまずいのだ。
べつに、趣味とかで忍者のまねごとなんてやってるわけではないのだ。
テン子:(・・・いたいた。イチゴさんの頭が見える。)
仕切り板の向こう側。
作業台ではいつものように紙の選別をしているイチゴさんが。
そっと近づき作業台の上に邪魔にならないところにスッとお客様から頂いたおまんじゅうのおすそ分けを置く。
イチゴさん:!?
うっ・・。
イチゴさんは突然現れた(ワタクシ的にはゆっくり現れたのだけどな・・)テン子さんに驚いたようで、言葉にならないような喉に何かを詰まらせたような声を出し、大きな目をさらに大きくさせて驚きました。
テン子:(・・おおお。想定内のこの反応。)
すいません。
へへへ。
ワタクシは少々はにかみを含ませた笑みで、とりあえず、すみませんと返しました。
イチゴさん:びっくりした。
自分の声にびっくりした。
そう言ってイチゴさんは自分の反応にびっくりしておりました。
いちごさんよ・・・。
ワタクシの突然の出現にびっくりしただけでなく自分の反応にもびっくりするとは・・。
そう。
イチゴさんは仕事に対する集中力がハンパないのだ。
ビビる・・・に近いくらいの驚愕反応を見せてくれるイチゴさん。
なので、ある意味声をかけづらいのだ。
今はもう慣れたが、最初のころはイチゴさんがびくついたことにこっちが反射的に反応して驚いてしまうということがちょいちょいあったりしたものさ。
この間も、伝達事項があったのでイチゴさんの作業台にそっと、音を殺しつつ近づいたのだが・・。
「イチゴさん」と、声をかけただけで、イチゴさんは体をびくっとさせ目を大きくしてまるで息が一瞬止まったかのような顔をして手を止めたのだ。
それに、今日だって、バナナさんが後ろにいたことに気づかづに振り返ったイチゴさんはバナナさんの姿を見て声にならないほどびっくりして目を大きく見開いてそして、数秒後に「びっくりした、びっくりした」と連呼していたのをワタクシはそっと、見ておったのだ。
・・・うむ。
イチゴさんの集中力のなせる業だなこれは。
テン子さんも、イチゴさんをできるだけ驚かさないように声をかける工夫はしておるのだが、やはりタイミング・・かな。
難しい・・・。
2019.7.2
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ないてん第133話
盗む、盗む、盗む。
ワタクシ、本日はピンチヒッターにて、ある重要な任務を任されました。
と、・・ここではあえて大袈裟に言ってみました。
というわけで、本日ビーター(原料撹拌作業)に入っております。
・・・というのも、最近のないてん、大変ありがたいことにまことに、忙しいのだ。
よって、お昼の休憩時間も交代制にして、ぶっ通しで機械稼働させております。
今回のお昼休憩時間中の機械を稼働させる当番のメンバーは、リンゴさんとワタクシでございました。
ふむ・・・。
原料をビーターに入れ、一通りの準備が終わりましたので、ワタクシはいつものように持ち場のビーターから下りてきました。
さてさて、・・次の原料の準備まで、少し間ができたぞ・・と。
ワタクシは紙がちゃんと漉けているのかを見に、抄き台(紙を漉く機械)のまわりをうろちょろとして、あちこちをチェックしておりました。
糊の出具合はどうか。
セイセン(原料のたまり場)はどうか。
そう、いつまたバナナさんが漉き台を任せてくれるか分かりませんからな。
まあ、なんというか、その時すぐに思い出せるように、しっかりと習ったことができるように、いろいろと練習もかねた予習復習をしているのだ。
こんな合間時間でもないと覚える時間がないのさ。
なかなか任せてくれる機会の少ない抄き台の番を、いざやろうとなった時、いちいち手順を聞いたり、ノートを見ながらやるなんてのははっきり言ってかっこ悪いのでね。
それに、ノートなんて見てる暇はないと思う。
一旦何らかの問題が紙に生じれば、あちこちの機械を調整したり、糊やら、原料やらいろんなところをつつきまわったりしながら調整をし、そして時間との戦いでもあるのだ。
もたもたしていたら、悪い紙がどんどん抄かれていってしまいますからな。
というか、やはり、抄き台というのは操作の仕方やそこそこのテクニックで紙の厚さや質なんかも変わってきたりしますので、難しい注文とか、急いでいるときなんかはやらせてもらえないし、そもそもテン子さんはスリッターがメインですのでやはり、注文が立て込んでいるときとか、漉きあがった紙の質なんかがよくなかったりすると、スリッターでの検品に要する時間がかかったりして、結局抄き台にかかっているヒマもないのだ。
それに、ワタクシこれでもないてんの経理なんかもしておりますのでね、やっぱり何かと忙しく、本音を申しますと、抄き台にかかる時間をも少し増やせたらなぁ・・なんと思ったりしております。
まあ、本当はもっとスリッターの腕も上げて、経理も間違わないように精度をあげたりもしなければいけないのですがね。
でも抄き台ができるようになると、紙漉きの全体の流れが分かるようになるのでね、そう思うとやはり抄き台を分かっていた方がいろいろと理解が早いのだ。
そんなこんなで、抄き台のあちこちをチェックしておると、ドライヤーの前で紙を切っているリンゴさんが目に入りました。
リンゴさんはドライヤー(紙を乾燥させる回転する台)に張り付いて流れてきた紙を破りそして、それを紙を巻き取っているロールへ上手に張り付けて再び紙がロールに巻き取られていくようにくっつけておりました。
なるほどなるほど・・・。
奥の方まで紙をぴたりとロールに押し付けて巻き取らせておる・・。
ワタクシはこの作業がまだ上手くできず、いつも巻き取らせた紙がだぼだぼになってロールに巻き付いているから、
巻き取った紙が歪んで皺になってロールに巻き取られてしまうのだ・・。
観察なう。
みっしょん。
リンゴさんを観察せよ。
リンゴさんの動きを観察します。
どこでどのようにリンゴさんが動いているのか。
リンゴさんによると、全体を順番に見て、糊の出具合や、紙の左右厚薄、セイセンロールの回転、原料が端っこに固まってないかとか。
全体を一連の流れで見ている・・と言っておった。
一旦ワタクシは持ち場のビーターに戻りました。
すると、原料のパルプがないことに気づき、急いでリンゴさんにパルプの補給をするように頼みました。
リンゴさんはワタクシに抄き台を見ているように言うと、パルプの補充作業に取りかかりました。
チャンスです!
ワタクシは、さっきリンゴさんがやっていた通りに紙を切り再びロールに巻き付けるという作業をやってみました。
おっと、ここで補足しておきますが、なぜ紙を切るかというとですね、紙の重さをはかるためです。
つまり、紙の厚さが一定で抄かれているかを見るためですね。
紙の重さが重ければ、原料がそれだけ多く詰まっているので厚いということです。
リンゴさんのように破いた紙を再びロールに巻き付ける作業・・簡単そうにやっていたがなかなか難しい・・・。
やはり、1回や2回挑戦したからと言ってコツをつかむのはそうたやすくはないのです。
紙は皺になり、数メートルほど巻き取られてしまったが、次回こそは上手くやるぞ!!
計った紙は規定値より重く厚みがあることが分かりました。
ワタクシは急いでリンゴさんにその報告をすると、リンゴさんはすぐさま抄き台のコントロール装置に向かいました。
ワタクシはリンゴさんがどのボタンを押しどのつまみを回しどのくらいの数字で調整するのかを見ておりました。
なるほど、これくらい厚いモノだと、このくらい数字を落とすのか・・・。
そういえば、リンゴさんは以前言っていた。
紙の厚さを調整するのは糊の量や、他にもいろいろあるけれど、抄き台のスピードで調整した方が簡単だから、これでするといい。
紙の厚さがいったいどのようにして変わっていくのかはリンゴさんでもわからないらしいが、とにかく、手すきと違って、機械から目を離したり、少しの油断が紙の厚さや状態を変えるのだそうだ。
実は、手漉きよりも機械漉きの方がいろいろと難しいのかもしれない。
とにかく、今回はちょっとした収穫があったな。
2019.7.8
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ないてん第134話
気になる・・・。
本日、数回目のいっぷくたいむ。
でわでわ・・・。
ワタクシは、インスタントコーヒーの粉をスプーンに適量救うと、手に持ってあるマイカップに入れました。
続けて、粉末植物性油脂クリームと、砂糖を少しづついれポットからお湯を注ぎ入れます。
そして、コーヒーなどの粉がお湯に溶けるまでかき混ぜます。
うむ・・・よかろう。
ワタクシは手にしたお湯で温かくなったカップを口元に持っていくと、ズズズ・・と一口で飲みました。
本当に一口でいただいたのですよ。
というか、一口で飲み干せる分量しかコーヒーを入れないのだ。
とまあ、コーヒーを飲んでいるとあるモノが目にとまりました。
これは・・・・・・・・・。
・・・・・・おまんじゅうではないか。
そう、このまんじゅう。
実は、朝出勤した時から、この冷蔵庫の上に置いてある湯沸かしポットの横にずっとあったのだ。
誰のだろう・・・。
・・・おまんじゅう。
袋には粒あんと表記されてある。
ワタクシ的にはこしあん派なのだが、まあ、粒あんも好きさ。
白い生地から透けて見えるダーク褐色のあんこが、実に旨そうだ・・。
いったい誰のだろうか・・・。
今朝からこいつがここにいるのだ。
今朝からワタクシの食欲中枢はもやもやとしておるぞ・・・。
考えても、おまんじゅうに念じてみても、ワタクシの胃袋に入ってくれるのかなんて答えてくれるわけもないし、とりあえず、仕事中でしたのでいったん持ち場に戻って仕事を再開することにしました。
スリッターの仕事は非常に神経を使います。
しばらくスリッターでの仕事をしておりましたが、再びコーヒーをいただきに冷蔵庫のもとへとまいりました。
コーヒーをいつものように、いつもの少量一口分の量を入れます。
と、・・・今朝から相も変わらず、透明のビニールの包装袋に入った小さなおまんじゅう5個が、ワタクシの目の前でワタクシの食欲を呼び覚まします。
これは、・・・ワタクシに食えと言っておるぞ。
ワタクシは思わずそのおまんじゅうのを袋ごと取り上げると、ふと、賞味期限表示が目に入りました。
・・・この日付は。
やはりな。
ふっ・・・読めた。
おそらくこれは、メロンさんだ。
メロンさんが置いた、十中八九そうに違いない。
何故そう思うのか、ワタクシの推理を説明いたしましょう!!
まず、そもそも、この冷蔵庫にお菓子類を置くのはメロンさんか、バナナさんかどちらかに限られているのです。
「みなさんここに置いてあるお菓子は食ってよいですよ〜」という意図で二人とも置いているのだ。
そして、それをワタクシは頂く(というか、だいたいワタクシかバナナさんしか食べないけどね)。
で、ですよ。
この謎(「ここに置かれてあるおまんじゅうはいったい誰が何の目的で置いてあるのか!!」問題)を解くカギはワタクシが見た消費期限にあるのだ。
消費期限は5月27日となっておった。
これは、一昨日前の日付なのだ。
つまり消費期限切れのおまんじゅうなのだ。
これはおそらく、メロンさんがいつもお弁当を買いに行っている商店のおばちゃんにもらったであろうモノだ・・と結論付けることができるのだ。
おばちゃんは「消費期限が近いからあげる」・・的なことを言ってメロンさんにそのおまんじゅうを渡したのであろうな。
そこの商店のなじみ客のメロンさんは、たまにそこのおばちゃんにサービスでちょっとしたお菓子なんかをもらってきたりするのだ。
そして、テン子さんたちに「食え」と、もらってきたお菓子やらチョコレートやらをおすそ分けしてくれるのだ。
まあ、メロンさんがそういう甘いものをあんまり食べないからくれるんだと思うけど。
去年の年末最後の勤務の日は、年の最後のお弁当を買いに行ったときに一年のねぎらいみたいな感じでおまんじゅうとかもなかなんかが入った大袋のお菓子をもらったからと言って、それをみんなで食べろと、差し出してくれた。
うむ・・これもメロンさんの人徳のなせる行いよの・・・。
メロンさんは好んでお菓子を買って食べる人ではないから、そのおまんじゅうを冷蔵庫の上にポンと、置いて「食べてよいぞ」とおまんじゅうにアピールさせているのだ。
うむ。
見れば見るほど、ワタクシの脳細胞はおまんじゅうを胃袋に招き入れたがっておるぞよ。
ここで食べてもおそらくは、食べてよいおまんじゅうであるだろうから問題はないのだが、一応メロンさんに確認をとってから頂こうと思い、メロンさんにおまんじゅうのことを聞くと、「くれたきねえ、食べていい」とのこと。
しかしな、メロンさんよ。
せっかくくれたのだけれどな、消費期限1日たっておるぞ。
メロンさんはこの消費期限表示のところを見ずにここにおまんじゅうを置いたのだろう・・。
あの人、そういうところおおざっぱなのだ。
ちったあ、気いつかえや。
ちなみに、みなさん。
たまに勘違いされておる方お見受けしますが。
賞味期限と消費期限の違いご存知か?
消費期限は、袋に記載されてある「年月日」までは「安全に食べられる期限ですよ」って意味で、賞味期限は記載されてある「年月日」までは「おいしく食べられる期限ですよ」って意味です。
なので、賞味期限の場合は日付が過ぎても味落ちはするものの1ヶ月くらいは食べても平気なのです。
まあ、そういうことなので、賞味期限が来たからって捨てるのではなくできるだけ胃袋にしまってあげましょうよ。
なんかもったいないし。
というわけで、日付の切れたおまんじゅうこの後どうなったかはご想像にお任せします。
2019.7.10
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ないてん第135話
危機回避能力。
みなさん。
いきなりですが、人間にとってどのような能力が一番大事だと思いますか。、
あなたならどのような能力が欲しいですか?
それは、ある日の午後の、そろそろ仕事も終盤にかかってきたころのこと。
ワタクシは、一旦持ち場スリッターの仕事を切り上げ、メールのチェックをしようと事務所に戻りました。
テン子:メロンさんて、妙なところで気が利くときがありますよねぇ。
ワタクシは、請求書の整理などをしているスイカさんが目を手元の用紙から目を離したスキを見て、話しかけました。
スイカさんは眉間にしわを寄せていた顔を解きふっと、こちらを向きました。
そして、ワタクシは続けて、メロンさんの勤勉なところを話しました。
スイカさんも相槌を打ちながら、
スイカさん:でも、時々、ぽっかり抜けちゅう時があるき気をつけないかん。
そう言って、ワタクシたちはメロンさんのよいところなどを話しておりました。
我々は今、このように平和に何気ない話をしたり安全に日々の仕事に従事できておりますが、実はこのような日常にこそ危険が迫っていたりするのではないでしょうか。
「天災は忘れた頃にやってくる」と言われるように、油断しているときこそ危ないのです。
危機回避能力。
危険を察知し、速やかに回避できると言う能力。
また、この能力は単に危険を回避するという回避能力だけを指すのではなく、いざ危険が身に起こった時にどのように対処できるかということも含まれておるのだと思います。
この能力はこの今の社会の中で生き抜いていくには、非常に重要な能力だと思います。
モノが増え、便利になり、あらゆるものが電子化し機械化され非常に便利で快適かと思われる現代社会。
しかしながら、機械が増えたということはそれだけ、無差別に発揮される機械のパワーに対し、充分な安全性と管理、そして自らがそのコントロールをする知識や技術を要求され、他人に対しあるいは自分に対する多重の責任も負わされている。
そして、マネーの電子化システムの向上により詐欺やハッキングなどのサイバーテロから、自らが身を守る程度の必要最低限のシステムの知識も必要とされてて、知らない間に、いとも簡単に自分の財産が狙われ抜き取られている可能性があるこの今の社会。
車が普及するにつれて、身近に死という人生の終焉が速まっているようにも思える一方では延命医療の是非が叫ばれて、社会が向かっているベクトルがめちゃくちゃに向いているようにも思えます。
システム社会になり何かにつけて合理化の進むことで起こる慢性的なストレスが原因で起こり得る人的な危険性。
災害大国日本の抱え持つ防災事情。
だからこそ、いつどこで何が起こりそれが自分に降りかかってきてもおかしくはない時代。
また、これは、商談や、取引、会社運営においても非常に大事な能力です。
相手との駆け引き、投資など、そして、いつなんどき起こりうるかわからないトラブルなどをいかにして回避できるかで、会社が生き残れるかどうかにかかわってきます。
ここぞという時には押し切って進める力もいりますし、これ以上押すとやばいぞという引き際を見極めるための目を養っていくうえでも、この危機回避能力が優れていることはとても重要なことだと思います。
また、社会生活をするうえでも、何かを瞬時に察知し、例えば、車が操作ミスで突っ込んで来たり、建物の上から大きな看板などの物体が落ちてきたり、そのような危険な物から自らが身を守っていかなければいけないのです。
能力には様々なものがあります。
いかに、運動能力が高くても、知識が豊富であっても、経験があったとしても、危機回避能力が高いということは時に、それらの能力以上の力を発揮するようにも思えます。
2019.7.15
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ないてん第136話
スイカさんの笑顔。
「おまたせ」
そう言ってニコニコ笑顔で工場に入ってきたのは、銀行まわりの所用を済ませて帰ってきたスイカさん。
おお・・案外お速いおかえりで・・・。
おかえりなさいと声をかけるとスイカさんは事務所に入っていきました。
そしてワタクシもそのあとに続いて、中に入りました。
銀行に出かけてあちこち回ってくるからと言って出ていったのはほんのついさっきのような気がしましたが、時計を見るとゆうに30分は経っている。
しかし、・・・それにしてもいつもより戻りが速いような気がするぞ・・・
などと思っていると、
「展示会ねぇ、ほらあの、軸装の展示会。あれ、ちょっと車が入れん場所やってねぇ、行かんかった。」
スイカさんは少しばかりがっかりした様子でそれでも、顔はニコニコさせながら行けなかった理由を言いました。
出がけに展示会によって行くからと言って出ていったスイカさんを、ふと、思い出しました。
そして、ワタクシは少し前から、あることが気にかかっておりました。
それは、スイカさんが工場に入ってきて「おまたせ」という一言を発する前に見せたとても優しさにあふれた笑顔でした。
スイカさんはよくニコニコして「ただいま」を言ったり「おはよう」や「おつかれさん」と声をかけてくれる人ですが、いつもの”ニコニコ”とは一段も二段も違っているような、そして、なにかふんわりとした気持ちが際立ったうれしそうな笑顔のように感じました。
ワタクシは、このスイカさんの笑顔見た瞬間「この笑顔を絶やしてはいけない」と思いました。
そして、それがワタクシのこのないてんにいるちょっとした理由、あるいは少しばかりの存在意義になってもいいかな・・とも思いました。
どういう理由で、スイカさんが嬉しそうにしていたのかは訊きませんでした。
スイカさんが嬉しいのだからどんな理由でもいいと、そう思います。。
我々は自分一人では生きてはいけません。
共同社会の中で自分の存在以上のモノを見つけていくのだと思います。
そして、人はみんな違っていて当たり前だし、人を理解することは容易ではない。
その中でお互いを間違いながらも認めていくことが人の気持ちをやさしくし、しあわせにしていくのだと思います。
自分がしあわせでなければ他人をしあわせにはできないと、ワタクシは思います。
人がしあわせである事が自分の喜びになるということはとてもしあわせなことです。
人が幸せでいるために、頑張るのも悪くないと、ワタクシは改めて思いました。
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ないてん第137話
棺内お布団「光雲」発進しました!!
我々、内外典具帖紙株式会社。
このたび、企画開発を株式会社オーピーエスさん、デザインイラストをペガサスリングさんそして、製造販売を内外典具帖紙がとり行うという共同開発により棺内用のお布団「光雲」が生まれました。
お亡くなりになられた方を安らかな眠りへとお見送りする最期のお布団として会長が特に力を注ぎましたのが、このお布団に使われております素材でございます。
楮100%使用した高級土佐和紙の生地に100%国産材の桧をつめておりますのでやさしい桧の香を感じることができます。
和紙の楮の長い繊維はしっかりと強い生地を造り上げておりますのでご遺体を横たわらせても破れたりすることはありません。
また、通気性がよく吸湿性にも優れておりご遺体をやさしくお包みすることができます。
デザインも4種類ご用意しております。
近年では、ご遺体を火葬する際には遺品などの思い出の品物を一緒に焼くといったことができなくなっているようです。
棺の中にはご遺体とそしてご遺体の衣装、お布団、添えるお花そして、お写真1枚が許されるのだそうです。
しかし、それではこの世を去るご遺体があまりにも寂しいのではないか・・そういう思いから始まった今回のご遺体用和紙布団開発。
ご遺体に少しでも華を添えて最期は明るくお見送りしたいという、会長の強い思いが込められております!!
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ないてん第138話
テン子のつぶやき。
ここ一週間ほど、天気の悪い日が続きましたが。
今日あたりから、晴れ間の続く日が来そうです。
ちびここ(愛車)に乗って、窓の外なんかを見ておりますと、夏休みを迎えたと思われる中学生が手足を真っ黒にして自転車に乗って日が落ちて、少々涼しさの戻ってきた夕暮れの中を帰っておりました。
夏休み中の部活帰りのようでした。
この後どうするのかな・・。
家に帰って、シャワー浴びて、夕飯食べて、宿題とかするのかな・・。
中学生、受験生かな?
受験生なら、部活も大変だが、受験勉強もしなきゃいけないよな。
宿題は嫌だが、朝ゆっくり起きられるし、好きな時ごはん食べられるし、ゲームし放題だし、遊び放題だし。
夕方涼しくなってから動けばいいし。
しかし、いいなあ・・。
青春真っ盛りじゃん。
そんなことを思いながら、ワタクシは家へと向かいました。
今日は7月23日です。
特にこれといって特別なことはないのですが、やる事はたくさんあるぞ!!
最近もいろいろと忙しいテン子です。
本音を言いますと、一日中寝ていたいです。
そんなの時間がもったいないじゃん!
夏は、プールに海の家にバカンスじゃん!!
・・・などと、お思いのあなた。
分かっておらぬな。
それはそれで楽しかろうが、テン子さんの人生最良の幸福は「睡眠」なのだ!!
あっつい夏昼間っから、ミンミンゼミとかクマゼミの鳴く声聞きながら扇風機かけて、クーラー少しだけかけて風鈴の音とか聞きながら、畳の上で大の字で寝るのがね、幸せの極みなのだよ。
人にはなそれぞれベストな生き方があるのだよな。
それは他人がどうこうと価値観を価値観でもって計ることはできんのさ。
テン子さんの身体に流れておる細胞も、血もすべてがなんもかんもほっぽり出して、「寝たい!!」と、言っておるのさ。
本当は夏休みでも取ってダラダラと過ごしたいところなんですが、そんなことしてたら本当に動かなくなってしまいそうだし。
まあ、だからこうして、仕事終わりも、ちょっくら町に出お決まりの場所ででジュース飲みつつパソコンカタカタやっておるし、休日の日も結構フル稼働させていますよね。
この頃は、読書とかもちょいちょいしてますよワタクシ。
100円〜300円ぐらいの中古の本を買ってきて、だいたい1日か2日のペースで1冊読んでます。
まあ、といっても、毎日読んでるわけではありませんが、読書いいですよね。
でもね、中古で十分でしょ。
まあ、テン子さんは最近数年ぶりに本を読み始めましたのでね、わざわざ新作読まなくても、過去作の中にまだ読むべき面白い本がたくさんあるのさ。
ちなみにどんなジャンルが好きかといいますと、まあ、基本何でも読みますが(新書でも、文庫でも、科学雑誌でも漫画でも、心理学でも、エッセイでも、とりあえず、気になったら何でも。あ、ハウツー本は読みません。)最近は小説にアンテナが反応しますね。
とりあえず、最近は恋愛小説が多いですが、ワタクシ恋愛小説ってそんなに読まないんですけどね。
うーん、なんていうか、恋愛は読んで浸るんじゃなく、恋して浸りたいんでしょうな。
それなのに、読んでるのはなぜですかね?
ワタクシ、本を選ぶときはたぶん作者の根深い思念みたいなのが感じられる本が好きですね。
そこを探るのが楽しいのさ。
本のストーリの中に書き手の気持ちがぶち込んであってね、そこがわかった瞬間とてつもなくすんなりと世界観を受け入れられる気分に浸れるというかね。
まあそんなこんなで、この夏も夏バテに気を付けて、熱中症にならないように頑張って乗り切りましょう!!
暑中見舞い申し上げます!!
2019.7.23
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ないてん第139話
心の隙。
「ちょっといい?」そう言って、スイカさんはワタクシとイチゴさんを選別の作業台の脇に呼びました。
こういう時は、何か、スイカさんの注意や、製品についてのミニ検証会があったりするのだ。
スイカさんが招集をかけた理由は、仕事上でのミスをいかにしてカバーし、再度同じミスをしないようにするか、という内容でした。
スイカさんは、「大事なことはいかにして、そのミスが起こらないように工夫するのか」というとこを強く言いました。
ワタクシは自分の起こした失敗を頭の中で振り返りながら次回、どのようにして、今回の起こってしまった失敗を起こさないようにするのかをイメージしながらスイカさんの話を聞いておりました。
と、同時に、自分がこのようなミスをしてしまったというふがいなさを感じておりました。
ミスをするということは、致命的で恥ずかしいことです。
そして、それは、気持ちの緩みからくるものだと思います。
注意力や、集中力、これくらいならできるだろうといううぬぼれた気持ち、心の油断からくるものです。
いかに、それに対して、自分が真正面から向き合えていなかったのかということが思い知らされます。
スイカさんは何度も声に力を入れて注意点を言います。
スイカさんは失敗をしても決して、怒りませんし、叱りません。
注意をするだけです。
そこがスイカさんの凄いところだとワタクシは思います。
人は怒られると委縮したり、反発心を持ったりしてしまいますが、スイカさんは注意をすることで、上手くミスをしたことに対する責任を生み出させて、次回からは気をつけなければならないという気持ちを持たせるように持っていくのです。(ワタクシ的観点からそう思っただけですが)
スイカさんが一通りの話を終わらせその場から発った後、ワタクシはイチゴさんに尋ねてみました。
テン子:今回のミスですが、無いようにするにはイチゴさんはどうしてます?
イチゴさんは大きな目を少し細め顔を下に向け、少々考えてから、言いました。
イチゴさん:もしかしたら、自分の思い違いということもある気ねぇ、私なんか特に他人がやった仕事を引き継ぐときなんか、これが違っちゃあせんろうか、とか、これはこの重さでいいがやろうか、とか、すっごい不安になる。
イチゴさんはワタクシよりもずっとずっと先輩です。
そして、この仕上げに関しては様々なイチゴさんなりの失敗をして、その都度、ミスを起こさないための工夫を考えそれらをうまく生かしながら仕事をしているのです。
また、たくさんのノウハウも持っております。
イチゴさんは続けて言います。
イチゴさん:そんで、もし、不安やったら、だれもつつけんようにしちょくとか、他の人に頼んで一緒に確認してもらうとかしたらえい。
テン子:そうですね。
不安なら、お互いが気を付け合って確認し合う。
私も、協力します。
声をかけてください。
他人の手を煩わすのは少々気が引けますが、しかし、忙しい時や、注文数の多い時などは特に危ないのです。
時間を気にしたり、個数を気にしたりして、手元に集中出来ず気が散りがちですし、ゴミ処理なんかに追われて注意散漫になったりします。
こういう時こそお互いがお互いを気にかけあって間違いが起こらないための予防をしなければならないのだと、思います。
仕事をしているときはいつでも、心に緊張感を持っておかなければなりません。
それが、ミスを防ぐことにもなりますし、また、機械を相手にしているワタクシとしては少しの気の緩みが大怪我につながる恐れもあるので、そういった危険から少しでも安全に作業できるように心理状態もきちんと健康でなければならないと改めて思いました。
2019.7.29
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ないてん第140話
メロンさんのイス、三代目。
メロンさんのイス。
以前にもお話ししました。
実はメロンさんのイス。
前回ご紹介したものは、二代目なのだ。
というのも、初代メロンさんのイスは座席のクッションの部分の底が抜けて壊れてしまったのだ。
あのイスは旧工場時代から使っていたもので、かなりの年季の入ったメロンさん特等座席。
旧工場時代は原料小屋の軒の下に置いてあり、そこでメロンさんはいっぷく休憩をとったり、お弁当を食べたりしていたのだが、新工場に移ってからその一人がけ用イージーチェアは事務所前の小さな軒の下に置かれることとなったのです。
一人がけ用とはいえ、そこそこ大きさのあるイージーチェアは工場内に置くには少々場所を取るし、事務所横の軒の下にしか置く場所がなく、当然といえば当然なのだが、直射ではないにしろ、強い日差しにさらされ、雨風に打たれる運命となったのだ。
そして、こっち(新工場)に移って3年頑張ったのだが、ついに今年2月頃だろうか、イスの木でできたクッションを支える部分が腐って腰を下ろすところが抜けてしまったというわけさ。
まあ、このような教訓から今度は雨風の強い日なんかは折りたたんで工場内に入れていたのだが、(・・と言うか、初代のイス、イージーチェアは折りたためないし結構でかいので工場に入れても置く場所がないのだがね)二代目のこのパイプイス(ないてん第95話 雨のちメロンさん)もあっという間に壊れてしまって、そんなわけで、現在、三代目のイスです。
このイスというのが、理科室の丸椅子くらいの小ささで、メロンさんはこの小さな椅子に座ってこじんまりとお弁当を食べ足り、いっぷく休憩をとっております。
なんか申し訳ないね、メロンさん。
本当はもっといいイスを用意してあげたいのだが・・・。
他にもイスが余っておるから持ってきてもいいのだが、問題が少々あってな。
初代も、二代目も、三代目も、多少水に濡れても、ビニール質の素材でできていたからクッション部分はボロクなりにくかっのだが、このイスは折りたためないし、クッション部分が水をはじかない布素材でできていて、雨に濡れると、クッションの中の部分までしみ込んでしまうのだ。
雨風で腐りはしないかとか考えると、今の三代目は折りたためて小さくできるから場所もとらないしこのままでも良いのかなと思いましてね。
まあ、この三代目も壊れたらこのイス持ってきますよ。
うーむ、それにしても、メロンさんのイス、どんどん小さくなっておる。
それに伴って、メロンさんもイスの上でどんどんこじんまりとなっていくような気がする。
2019.7.29
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